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熊本地方裁判所 昭和50年(ワ)209号 判決 1977年5月31日

原告

木村聖賢

被告

阪本幸男

主文

一  被告は原告木村聖賢に対し金八万円及び内金七万円に対する昭和四八年九月一三日から、原告木村紀子に対し金一四六万四、九三〇円及び内金一三一万四、九三〇円に対する右同日から各支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告は、原告木村聖賢に対し金三三万円及び内金三〇万円に対する昭和四八年九月一三日から、原告木村紀子に対し金五一八万五、九三〇円及び内金四六八万五、九三〇円に対する同日から各支払ずみまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三請求の原因

一  事故の発生

原告らは、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四八年九月一三日午前一〇時二〇分頃

(二)  発生地 菊池郡菊陽町大字津久礼二二一二番地先路上

(三)  加害車 普通貨物自動車(以下「甲車」という。)

運転者 被告

(四)  被害車 軽四輪乗用自動車(以下「乙車」という。)

運転者 原告木村紀子(以下「原告紀子」という。)

同乗者 原告木村聖賢(以下「原告聖賢」という。)

(五)  態様 乙車が右折するため一時停止していたところ、後続して来た甲車に追突されて道路右側部分に押し出され、折柄対向して来た普通乗用自動車に衝突して押し戻され、更に甲車に衝突された。

(六)  原告らの傷害の部位、程度

1 原告聖賢は、右側前額部打撲症、右側頬部擦過傷、上口唇部挫傷の傷害を受け、昭和四八年九月一三日から同年一一月一日まで星子外科病院に通院(実日数四日間)し治療を受けた。

2 原告紀子は、顔面多発性挫創、胸部圧挫症、右膝部挫創、頸椎捻挫症の傷害を受け、昭和四八年九月一三日から同年一〇月一四日まで三二日間、星子外科病院に入院し、その後同年一一月四日まで同病院に通院(実日数一一日間)し、同月五日から同月二八日まで二四日間、再手術のため入院してそれぞれ治療を受け、再に昭和四九年九月一二日に右側前額部の異物剔出手術を受けたが、なお顔面に醜状痕が残存し、右膝部に傷痕の後遺症がある。

二  責任原因

被告は甲車を保有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法第三条により、本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

三  損害

(一)  原告聖賢の損害

1 慰藉料 金三〇万円

原告聖賢は、本件事故による受傷は軽傷で済んだが、事故によるシヨツクは大きく現在でも救急車の音におびえ玩具の車にも恐怖でおびえるほどであり、その精神的苦痛に対しては金三〇万円を相当とする。

2 弁護士費用 金三万円

原告聖賢は、被告が右損害賠償債務の任意弁済に応じないので、本件訴訟の提起及び追行を弁護士高屋藤雄に委任し、手数料として金三万円、謝金として金三万円を支払うことを約したが、本件事故と相当因果関係にある損害として被告に対し金三万円の支払を求める。

(二)  原告紀子の損害

1 治療費 金三五万四、三五〇円

2 付添看護費 金一一万円

星子外科病院に入院中、家族の付添看護を受け、一日当り金二、〇〇〇円の割合による費用を要した。

3 入院雑費 金二万七、五〇〇円

星子外科病院での入院期間中、諸雑費として一日当り金五〇〇円の割合による支出を要した。

4 カツラ代 金三万七、一〇〇円

顔面に醜状痕が残存したため、カツラを購入し、通院期間中及びそれ以後暫時これを使用した。

5 将来の整形手術費用 金一七三万九、〇〇〇円

原告紀子は、本件事故により顔面に醜状痕が残存し、これを負傷以前の状態にできるだけ近づける為に整形手術を実施することが必要であり、これに要する費用は、手術料金八二万円、処置料金二二万円、注射料金一六万円、薬価・電気治療その他として金六万四、〇〇〇円、入院料金四七万五、〇〇〇円であつて合計金一七三万九、〇〇〇円である。

6 慰藉料 金五〇〇万円

原告紀子は、鹿児島家政学院を卒業後、ポーラ化粧品鹿児島営業所に美容師として勤務し、昭和四四年一〇月五日に二一歳で結婚して長男聖賢を出産し、平和な家庭を築いていたが、本件事故による傷害のため、輸血並びに酸素吸入を受けながら六〇針余におよぶ顔面の縫合手術を受けるなど精神的肉体的苦痛を受け、入通院による治療後も顔面に七か所におよぶ醜状痕(自賠法施行令別表後遺障害等級七級一二号該当)を残した。

原告紀子は、既婚とはいえ未だ若いにもかかわらず女性の生命ともいえる顔面に醜痕を残し、例え整形手術によつてある程度は回復可能であるとしてもその精神的苦痛は甚大であり、前記手術の際に多量の輸血をうけたため、妊娠については医師から特別の注意を受け、以来結婚に当つて夫とともに話し合つた家族計画も挫折せざるを得なかつた。

本件事故は車間距離を保たなかつた被告の一方的な過失が原因であるにもかかわらず、被告は、本件事故後、カンズメ五、六個、ピーナツ、酒一、二升の見舞をなしたのみで、自賠責保険で認められた以上の請求に応ぜず、その態度は劣悪であるといわざるを得ない。

以上の事情を総合すると、原告紀子に対する慰藉料の額は金五〇〇万円が相当である。

7 損害の填補

原告紀子は、本件事故に伴い自賠責保険から治療費として金三五万四、三五〇円、その他の費用分として金一三万七、六七〇円、後遺症分として金二〇九万円をそれぞれ受領し、これらを原告紀子の前記損害にそれぞれ充当した。

8 弁護士費用 金五〇万円

原告紀子は、被告が右損害賠償債務の任意弁済に応じないので、本件訴訟の提起及び追行を弁護士高屋藤雄に委任し、手数料として金三二万円、謝金として金三二万円を支払うことを約したが、本件事故と相当因果関係にある損害として被告に対し金五〇万円の支払を求める。

四  結び

よつて、被告に対し、原告聖賢は金三三万円及び弁護士費用を除いた内金三〇万円に対する事故発生の日である昭和四八年九月一三日から、原告紀子は金五一八万五、九三〇円及び弁護士費用を除いた内金四六八万五、九三〇円に対する右同日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四請求原因に対する被告の答弁及び主張

一  請求原因一項の(一)ないし(五)の事実は認め、同一項(六)1の事実は不知、同一項(六)2の事実中、原告紀子の受傷の部位、程度及び入通院の期間は認め、その余の事実は不知。

二  同二項の事実は認める。

三  同三項(一)1の事実は争う。仮に原告聖賢に主張の受傷と態度があるとしても、それは軽微で慰藉料請求の事由とはならない。

同三項(一)2の事実は不知。

同三項(二)の1ないし6の事実はすべて不知。原告紀子が付添看護を要した期間は一四日間であり、本件事故当時における家族の付添看護費は一日当り金一、〇〇〇円ないし金一、二〇〇円が相当である。原告紀子が入院雑費を要したとの証拠はなく、仮に要したとしても入院一日当り金二〇〇円ないし金三〇〇円が相当である。カツラ代については、仮にこれを購入したとしても、その残存価格は控除されるべきである。将来の整形手術費については、形成治療によつてきずが全くなくなることはなく、きず跡が目だたないようにするものであるから、性質上治療費支出の見積りはできないものであり、賠償額算定の基準とはなし得ない。仮に将来一定額の支出が予想される場合であつたとしても、原告紀子は星子外科病院での治療後約二年半を経た今日まで右手術のための入院を申込みその承諾を得た事実はなく、手術を受ける予定時期も明らかでないので、証明不十分と謂うべきである。原告紀子の傷痕は時間的経過によつて将来なお変化消散するものと考えられる反面、整形手術をしても完全に正常に復することができない以上果して手術が必要かつ相当か否かも極めて疑わしい。しかもその治療単価自体も所謂美容整形レベルで算定されたもので、社会一般において常識的に認められている診療費の水準を著しく上廻つているので、主張の金額が本件事故と相当因果関係を有するとはいえない。仮に原告紀子に整形手術の要があるとしても、その手術費の請求は、予め請求を為す必要ある場合でないから、不当であり、将来の支出費用には遅延損害金を付すべきでなく、中間利息は控除すべきである。

原告紀子は、醜状痕残存による慰藉料を請求するが、これは将来の整形手術費の請求と二重請求となるので許されない。

同三項(二)7の事実は認める。

同三項(二)8の事実は不知。

第五証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生と責任の帰属

請求の原因一項の(一)ないし(五)の事実及び同一項(六)2の事実中、原告紀子の受傷の部位、程度及び入通院期間、同二項の事実は当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第一号証、原告紀子本人尋問の結果によれば、請求の原因一項(六)1の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、第六号証の一、二、原告紀子本人尋問の結果によれば、原告紀子は、本件事故発生の日である昭和四八年九月一三日から同年一一月二八日まで入通院治療を受けたほかに、昭和四九年九月一二日には右側前頭部に残存していた異物(ガラス片一部)の剔出縫合の手術を受けたが、なお顔面に醜状痕が残存し、右膝部に傷痕の後遺症のあることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  損害

(一)  原告聖賢の損害

1  慰藉料 金七万円

原告聖賢法定代理人木村宇宙及び原告紀子本人の各尋問の結果によれば、原告聖賢は、本件事故後しばらくの間は救急車のサイレンの音にもおびえて事故によるシヨツクが続いていたことが認められる。

右認定事実と前認定の原告聖賢の傷害の部位、程度及び通院経過等諸般の事情を考慮すると、原告聖賢の精神的損害を慰藉すべき額としては、金七万円を相当と認める。

2  弁護士費用 金一万円

成立に争いのない甲第七号証及び弁論の全趣旨によれば、請求の原因三項(一)2の事実が認められる。

しかしながら、本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らし、そのうち被告に負担させうる弁護士費用としては、金一万円を相当と認める。

(二)  原告紀子の損害

1  治療費 金三五万四、三五〇円

成立に争いのない甲第三号証、原告紀子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告紀子は、本件事故受傷による治療費として金三五万四、三五〇円の支出を余儀なくされたことが認められ、反する証拠はなく、右金額は、本件事故と相当因果関係にあると認められる。

2  付添看護費 金二万八、〇〇〇円

原告紀子本人尋問の結果によれば、原告紀子は、本件事故受傷による入院期間のうち約一か月位にかけて母と妹の交替による付添看護を受けたことが認められるが、前掲甲第二号証の三によれば、原告紀子が治療上、付添看護を要した期間は、事故当初の一四日間であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実に原告紀子の傷害の部位・程度等を併せ考えると、原告紀子は、入院期間のうち一四日間に限り一日当り金二、〇〇〇円の割合による合計金二万八、〇〇〇円の付添看護費を要したものと認めるのが相当である。

3  入院雑費 金二万七、五〇〇円

原告紀子の傷害の部位、程度及び治療経過等に照らすと原告紀子は、入院期間五五日につき一日当り金五〇〇円を下回らない割合による入院雑費を要したものと推認される。

4  カツラ代 金三万七、一〇〇円

成立に争いのない甲第四号証、原告紀子本人尋問の結果によれば、原告紀子は、本件事故による受傷部位の手術治療のため頭部右側を剃髪されたことと前頭部の傷痕を隠すためにカツラを金三万七、一〇〇円で購入し、通院する際及びその後二か年位にわたりこれを使用したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、原告紀子が前頭部の傷痕を隠す等のためカツラを購入し使用したことは無理からぬことというべきであるが、カツラは通常においても使用されるもので、使用後もなお残存価値があるとも考えられるものの、本件の場合、原告紀子が二か年位にわたつて使用した後もなお残存価値があるとの証拠はなく、原告紀子の本件事故による傷痕がなお後遺症として残存していることは前認定のとおりであるから、右カツラの残存価値及び耐用年数如何にかかわらず、右購入代金額は原告紀子の受傷と相当因果関係にあるものと認めるのが相当である。

5  将来の整形手術費 金一一五万円

前掲甲第二号証の一ないし三、第六号証の一、二、成立に争いのない甲第五号証の一、二、証人白壁武弥、同棚平晃の各証言、原告紀子本人尋問の結果によれば、原告紀子は、昭和四八年九月一三日、本件事故による受傷のため、顔面四か所に六六針の縫合手術を受け、創処置並びに薬剤治療をなした後、同年一一月五日、前額部瘢痕ケロイド形成術及び異物(ガラス片)剔出、右上眼瞼瘢痕ケロイド形成術、右側頬部ケロイド形成術を受け、更に同月一三日、異物剔出術、右上眼瞼部及び前額部瘢痕皮膚形成術を受けたものの、同年一二月一日現在において、前額部及び上眼瞼に長さ約五センチメートル、約八センチメートル、約六センチメートル、約五・五センチメートル、約四・八センチメートル、約二センチメートル、約二センチメートルの計七か所にわたり醜状痕を残し症状固定を見たが、その後昭和四九年九月一二日に至つて、再度、右側前頭部の異物(ガラス片)の剔出縫合術を受けたこと、原告紀子は昭和五一年一月二三日現在においても、頬、上眼瞼、眉、額等に醜状痕が存在し、同年一二月七日現在、右の眉が全く動かず、下方から見た場合、左右の白眼が違い、また皮膚を一杯に使つているため右のこめかみの辺が突つ張つていること、右醜状痕は受傷後一年以上も経過しているため今後とも消散することはないこと、原告紀子の右醜状痕は形成外科の手術を受けると、額から頬にかけての傷痕は幅を幾分小さくすることができ、上眼瞼から眉にかけては全く傷跡無しということにはならないが、より美しくすることができること、原告紀子の傷痕を手術するとしても全体の三分の一位であり、したがつてこれは傷跡を目だたなくするものであること、右手術をなす場合の料金は当該医師の技術及び経験度等によつて違いはあるが、大阪市において開業している白壁武弥医師の場合は入院五〇日間を要し、昭和四九年一〇月現在で手術料金八二万円、処置料金一八万円、注射料金一三万六、〇〇〇円、薬価・電気治療費その他金五万二、〇〇〇円、入院料金四七万五、〇〇〇円で合計金一六六万三、〇〇〇円であり、昭和五〇年八月現在で手術料と入院料が右と同額で処置料が金二二万円、注射料が金一六万円、薬価・電気治療費その他が金六万四、〇〇〇円で合計金一七三万九、〇〇〇円であり、右いずれも入院料は特別室の料金で一日当り金九、五〇〇円によるものであるが、普通部屋を利用する場合は一日当り金五、〇〇〇円であつて、右見積料金は当時の日本における最高の水準によつたもので、これについても経済状況からして半年位しか維持されないものであること、眼瞼の形成手術は非常に難しい部位に属すること、形成治療については医師の技術のほかに各人の判断によつてその限界を見極めるのが異つてくるものであるので、当初においてどの程度まで治療するというめどがなければその治療費の見積もできないが、当初においてそのめどが立てばこれに要する治療費の見積は可能であること、原告紀子は顔面醜状の形成手術を望んでいるが、費用がないためできないでいることが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、不法行為によつて身体の傷害を受けた者が、将来、右傷害に帰因して治療ないし手術を受ける必要のある場合、その費用が未だ現実に支出ないし債務を負担していないことを理由に現在の損害として請求できないとし、或いは将来支出することの蓋然性の高いものに限つて現在の損害として請求し得るとの考え方もないわけではないが、不法行為による損害は受傷それ自体であつて、将来の支出予想額は損害算定の一資料となるにすぎず、すべての損害は事故時に発生するものと解されるところ、右認定事実によると、原告紀子の前記醜状痕は、形成手術によつて事故前の状態に接近させることが可能であつて、これが完全に元通りになるものでないとしてもけして不要とはいえないどころか醜状痕の後遺症が残存した場合には、その程度にもよるが若い女性にあつては形成手術をなすことも通常考え得るものであり、原告紀子自身もこれを希望していること等に鑑みると、原告紀子の将来の整形手術に要する費用は本件事故と相当因果関係にあり、これを現実の損害として請求し得るものと評すべきであるが、前認定の治療費の見積が大阪市における開業医師によるもので、これは当時の日本における最高水準のものとされていることに徴し、交通事故による損害は通常生ずべき相当程度の額に止まるべきであるから、昭和五〇年八月現在の治療見積額金一七三万九、〇〇〇円のうち入院料は普通部屋の一日当り金五、〇〇〇円に限るのを相当とし、その余の料金については、原告紀子の醜状痕の部位、程度等諸般の事情に鑑みると、そのうち約七割程度に限るのを相当と判断されるので、原告紀子の本件手術費は、合計金一一五万円が本件事故と相当因果関係にあるものと推認すべきものと考える。

なお、右の見積額は、本件事故後約二か年経過した当時のもので、その後において物価上昇していることは公知の事実であるから、その額も高額化していることが予測されるが、原告紀子の形成手術はそれ程遠い将来のこととも考えられないとともに、さりとて右見積額が事故後約二か年経過したものであることを理由にその間の中間利息を控除するのは適当でないというべく、したがつて、右評価額にそのまま事故発生時から遅延損害金を付するのもあながち不当とはいえないと考えられる。

6  慰藉料 金二三〇万円

原告聖賢法定代理人木村宇宙及び原告紀子本人の各尋問の結果によれば、原告紀子は、昭和二三年一月三日生れの女性で、昭和四一年三月、鹿児島家政学院を卒業後、ポーラ化粧品鹿児島営業所に美容師として勤務し、昭和四四年一〇月五日に二一歳で恋愛結婚し、昭和四六年一月四日長男聖賢を出産したが、結婚当初から夫と相談して家族計画をたて、三〇歳までには三歳間隔で三人の子供を産み上げる予定であつたこと、原告紀子は本件事故による受傷のため、多量の輸血を受けたが、そのために一年間位は血液が不適合になる場合があるため妊娠を控えるように警告されており、顔面の形成手術を受ける際にも麻酔をしなくてはならないので、それも妊娠中はよくないと云われていること、原告紀子夫婦は現在でも少なくともあと一、二名の子供を欲しているが、原告紀子の顔面醜状の形成手術をなすめどが立たないため出産計画ができない状態にあることが認められ、右認定に反する証拠はない。

証人白壁武弥の証言、原告紀子本人尋問の結果によれば、原告紀子は、前認定の顔面醜状のほかに、右側の膝にも長さ約九・五センチメートル、幅約二センチメートル近くの傷痕の後遺症のあることが認められる。

以上の認定事実に、本件事故の態様、原告紀子の傷害の部位、程度、治療経過、後遺症の部位、程度、原告紀子の性別、年齢、原告紀子は前記の形成手術をなす予定であること等その他本件に顕われた一切の事情を考慮すると、原告紀子の蒙つた精神的損害に対する慰藉料の額は金二三〇万円を相当とする。

7  損害の填補

原告紀子が本件事故に伴い自賠責保険から治療費として金三五万四、三五〇円、その他の費用として金一三万七、六七〇円、後遺症分として金二〇九万円をそれぞれ受領し合計金二五八万二、〇二〇円を原告紀子の前記損害に充当したことは同原告の自陳するところである。

8  弁護士費用 金一五万円

成立に争いのない甲第七号証及び弁論の全趣旨によれば、請求の原因三項(二)8の事実が認められる。

しかしながら、本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らし、そのうち被告に負担させうる弁護士費用としては、金一五万円を相当と認める。

三  結論

以上説示のとおりであるから、原告らの被告に対する本訴請求は、原告聖賢が金八万円及び弁護士費用を除いた内金七万円に対する事故発生の日である昭和四八年九月一三日から、原告紀子が金一四六万四、九三〇円及び弁護士費用を除いた内金一三一万四、九三〇円に対する右同日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、原告らのその余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 玉城征駟郎)

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